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長野・サンクゼールへ【杉本記者の取材後記】

「今後10年すれば、売上高の半分ぐらいはグローバルからあがる事業に変わっている」。サンクゼールの久世良太社長は穏やかな口調ながら、力強い言葉でこう語った。追求するのは、単純な和食の輸出ではない。「食のSPA(製造小売業)」という同社がこだわるビジネスモデルが世界に通用するかという挑戦でもある。
 だしやごはんのお供、珍味、おかき・せんべいといった昔からの和食を集めた「久世福商店」を国内で約150店、祖業ともつながりの深いワインやジャム、パスタソースを販売する「サンクゼール」を20店弱展開する同社。長野県飯綱町の本社周辺にはぶどう畑とりんご畑が広がり、自ら農業の担い手としてオリジナルブランドの食品を作ってきたメーカーとしてのアイデンティティーが伝わってくる。
 同社にはそうしたメーカーとしての顔と、「キュレーター」あるいは「プロデューサー」としての顔がある。全国津々浦々のおいしいものを見つけだし、地場のメーカーに働きかけてオリジナル商品を一緒に作り、約170店で少量多品種を売り切っていく。店頭という買い物客との接点を持っている強みを生かし、消費者のリアルタイムな反応を商品開発に反映し、仮説と検証を繰り返す。


左から サンクゼール 久世良太社長、杉本記者

 現在では500社を超える食品メーカーなどと取引を行っているという。取引先には中小・零細の地場企業も多く、年間売上高が200億円近いサンクゼールに比べて圧倒的に資本や人材など経営資源に乏しい。経営体力の観点から、成長投資や思い切った開発に乗り出せないケースも少なくない。そこへ170店の販売チャネルと商品開発力という資源を差し伸べ、ユニークな商品をともに開発できるかが腕の見せどころとなる。
 「地元の方は強みと認識していないところが、私たちにはそれはすごく強みなのではないか、と見えることがよくある」と、久世社長は語る。
 例えば、千葉県のせんべいメーカーを訪ねたときのこと。経営者と意見を交わしていると、こんなエピソードが出てきた。同社の製品「柿の種」で餅米のみを原料に使った製品をつくっていたが、新入社員の研修用に作ったものでいまはもう生産していないという。この話を聞いたサンクゼール側には、ヒットの予感がふつふつと沸いてきた。「ぜひ復活してほしい」と熱心に働きかけた結果生まれたのが、「なかなか減らないやみつき柿の種」という大ヒット商品だ。


ワイナリーのある本社前で

 現在、売上高の7%を占める海外では卸売りが主体で厳密には日本でのビジネスモデルとは異なる。ただ、SPAの軸ともいえる消費者の反応をデータとしてとらえ、マーケットにあわせた商品開発にフィードバックする手法は共通する。主力市場のひとつ、米国では「ユズや味噌といった日本固有の味を、バーベキューソースなどの現地の消費者が使いやすい調味料と融合した『ハイブリッド商品』は人気」という。米オレゴン州にはベリー類などを生産する農地も取得しており、農業に根ざしたモデルを追求する。
創業から半世紀。グローバリゼーションとローカライズを掛け合わせた「グローカライズ」で、次の成長を果たせるのかに注目したい。


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