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【吉田編集委員の取材後記】第10回放送から

青果業者などが規格外の農産物を仕入れて販売することに対し、生産者の間には根強い反発があります。「食品ロスの削減につながるので、いいことなのでは?」と思う人もいるでしょうが、反発には理由があります。
食品ロスが発生するのは、食品が余っているからです。他にもいろいろ原因はありますが、もし足りなければ廃棄される量はいまより大幅に減るはずです。常に過不足のない状態を実現できればいいのでしょうが、農業生産は天候に左右されるので、需要と供給をいつも同じ水準に保つのは不可能です。
万が一不足すれば、国民の命が脅かされます。そこで「ならして過不足ないよりも、常に余っているほうがいい」ということになります。値段には当然、下方圧力がかかります。それが農業が直面している現実です。
こんな状況のもとで規格外品まで流通させれば、どうなるでしょうか。過剰がもっと深刻になり、ただでさえ安い規格品の値段まで下がることになります。多くの生産者はそれを心配しているのです。とくに疑問を抱くのが、流通業者が規格外品を安く仕入れ、低価格で販売するようなケースです。


左:コロットの峯岸祐高さん

コロットの峯岸祐高さんは、そこに1つの答えを出しました。規格外品と規格品を区別せず、同じ値段で買い取って販売するというやり方です。各地で廃棄される規格外品がすべて販売対象になれば、この手法でも価格の下方圧力は当然高まります。でも現時点でそこまで考えるのは杞憂でしょう。
むしろ注目したいのは、峯岸さんがなぜ規格外品も扱っているかです。「捨てるのはもったいない」という思いはもちろんありますが、そこには「おいしいのに」という前置きがつきます。評価のポイントを変えたのです。
多くの流通業者が農産物を形や大きさで分けるのは、「運びやすい」「見た目がいい」など様々な理由があります。これに対し、峯岸さんは形や大きさがそろっていることより、「おいしいかどうか」を重視しているのです。
農家が作ったものはどれも同じだと考えているのではなく、しっかり味を追求してほしいというのが峯岸さんの要望です。売り先は、同じ発想で農産物の価値を判断してくれる青果店や飲食店、消費者などが中心になります。これまで大きさや形でクレームがついたことはないそうです。
では峯岸さんはそうした売り先をどうやって見つけ、増やしてきたのでしょうか。答えは「紹介」。例えば、見た目よりも味を評価するシェフが、同じような考えを持つシェフを峯岸さんにつないでくれるのです。
飲食店や小売店がお互いに張り合うより、理想とする生産と消費の関係をつくるために仲間を増やした方がいいという発想がそこにはあります。「飽食の国」といわれるこの国で、大切にすべき考え方だと思います。