農業はコンサルティングという仕事にとって難しい分野です
農業はコンサルティングという仕事にとって難しい分野です。助言すれば目に見えて収益が向上し、その一部をコンサルティングの対価として支払うという関係がすぐには成り立ちにくいからです。
生産性向上の切り札になるとされるスマート農業に関しても、同様のことが言えます。作業計画や作業状況を管理するシステムを提供していた企業が、ここ数年で何社かサービスから撤退しました。
高齢農家の引退で農地の集約が進んでおり、大規模農家は田畑をどう管理するかが課題になっています。そのためにシステムは必須です。でもそれを使っても、収益を飛躍的に増やすのは難しいのです。
システムの導入で農家が大きく潤うわけではないので、サービスを提供する企業は自社の人件費を賄える水準に手数料を設定することができません。農業関連サービスを手がける企業が直面する現実です。
今回のゲストで、デザイナーの江藤梢さんの話を聞きながら、そんなことを考えました。ロゴマークやパッケージデザインは販売のツールであり、経営の改善そのものを目指すためのものではありません。
にもかかわらず、江藤さんにロゴを発注した農家は結果的に自らの経営を見つめ直すことになります。江藤さんが提案するのは「トマトが売れるための可愛いデザイン」といった類いのものではないからです。
まず営農についての考え方をじっくり聞くことから、デザインづくりはスタートします。同じトマトのデザインでも、シャープな線で縁取ったり、柔らかい感じを表現したりといった違いが出てきます。
このプロセスを通じて、農家は自らの営農の姿を鏡に映すように知ることができます。誰に何をどんな形で提供するために、日々田畑に向かっているのか。それを明確にするのはとても大切なことです。
冒頭のテーマに戻れば、コンサルティングやスマート農業が難しいのは、助言やシステムが不十分なせいとは限りません。サービスが現場の事態を踏まえていないことも当然あります。でも農家の一部が漠然とした気持ちで利用しているために、成果が出にくい可能性もあります。
農協の営農指導を含め、農業関連の多くのサービスは無償です。これに対し、有償のサービスを活用して収益を増やせる態勢に、まだ多く農家がなっていないのかもしれまん。カギを握るのは経営です。
生産者という立場にとどまることと、農業の経営者になることは決定的に異なります。どんなデザインがふさわしいかを考えることは、前者から後者に移行するきっかけにもなるのではないでしょうか。
↑↑ 江藤梢さんご出演回、ぜひお聴きください!