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農家にとって経営のバトンタッチは大きな課題です【吉田編集委員の取材後記】

農家にとって経営のバトンタッチは大きな課題です。たとえ会社形態に衣替えしていたり、従業員を雇ったりしていても、昔ながらの家業的な経営体質から完全に抜け出すのは簡単なことではありません。
例えば、私が以前からつき合いのある40代の農家は父親どころか、祖父が長年経営の実権を握っていました。自分が思い描くような経営をさせてもらえず、実家とは距離を置くかたちで新たに農場を開きました。
経営を代々スムーズにつなぎ、連続的に発展させるのが理想でしょう。でも農業の現場ではなかなか理想通りにはいかず、家族間の微妙な関係が事業の成長の足かせになっていることが少なくありません。
別のケースでは、父親が町議選に出たことが、息子が経営をグリップする大きなきっかけになりました。父親の興味が政治に傾いたのを機に、若くして代表に就き、その後、全国的にも有名な経営者に成長しました。

様々な例を見てくると、フクハラファームはモデルケースとも言うべきプロセスをたどっていることがわかります。代表の福原悠平さんが、父親で創業者の昭一さんから経営を継いだのは30代前半のとき。昭一さんは60代前半で、農家の一般的な感覚で言えばまだ「現役バリバリ」でした。
それでも社長交代が実現したのは、昭一さんが「若いうちから経営者として経験を積むべきだ」と考えたからです。トップには他の人にはわからないプレッシャーがあり、代表の立場にないとその大きさはわかりません。課題に向き合い、自ら判断を重ねることで、経営のスキルが向上します。

フクハラファーム 福原悠平社長
後ろにはフクハラファームメンバーそれぞれが大事にしていることが書いてある

じつは今回の収録で、「父親との比較」を話題にすべきかどうか迷いました。福原さんは代表になってからすでに6年が過ぎており、いまさら父親のことを聞かれてどう受け止めるかわからなかったからです。
フタを開けてみれば、これはまったくの杞憂(きゆう)でした。こちらから聞くまでもなく、福原さんは「父親へのリスペクト」を度々口にし、まだ父親には及ばないと思っていると率直に語ってくれました。
そう書くと、父親がいまも仕切っていると思われるかもしれませんが、そうではありません。マネジメントをしているのは、代表の福原さんです。一方で栽培については、父親が必要に応じて助言しているのです。

父親の昭一さんは、脱サラして数ヘクタールから稲作を始め、日本有数のメガファームに育て上げたたたき上げの生産者です。風にそよぐ稲の様子を見て、いまどんな作業をすべきかを瞬時に見抜く力は卓越しています。この技術は、時間をかけて伝える必要があると考えているのです。
日本の農業は1990年代から法人化が盛んになり、かつてない規模の農場が続々と誕生しました。フクハラファームはその1つです。他の農場がどう経営を継承していくのかもいずれお伝えしていこうと思います。