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【吉田編集委員の取材後記】農業システムの存在意義

スマート農業という言葉が登場して約10年になります。この間、現場で広く使われるようになった技術もあれば、いつの間にか姿を消したシステムもあります。明暗を分けたのは言うまでもなく実用性の差です。

今回のゲスト、坪井俊輔さんが代表を務めるサグリのシステムは多くの自治体から注目を集め、導入が進んでいます。理由は現場で役に立つからですが、単なる利便性の向上にとどまらない可能性を秘めています。

例えば、耕作が放棄されている確率を推計するシステム「ACTAVA(アクタバ)」。これを導入することで、農業委員会は田畑の状態を現場に行って確認する「農地パトロール」の仕事を効率化することができます。

これまで多くの場合、農業委員は何を育てている農地かを記した台帳と地図をつき合わせながら、現地を回っていました。これに対し、アクタバはタブレットに自動表示されるので場所の特定が格段に楽になります。

でも本当の効果はここからです。確率的に見て、間違いなく耕作されていたり、反対に耕作が放棄されていたりする地域は、わざわざ見に行く必要がなくなるのです。実際に確認するのはその中間の地域です。

ここまでが業務の効率化ですが、地域が考えるべきはこの先です。農業委員会は耕作放棄の発生防止と解消が仕事ですが、現実には各地で放棄地が増え続けています。そうした現実をどう受け止めればいいのか。

荒れ地を復旧できればそれに越したことはありませんが、多大な労力が要ります。マンパワーに照らせば、できることには限りがあります。むしろ、守るべき田畑とそれ以外をはっきりさせたほうがいいのではないか。

サグリのシステムは、そういうことを考えるきっかけを与えてくれるのです。この瞬間、システムは効率化の道具から、地域の農業の未来を見つめ直すためのツールに変わります。地方行政の大きな役割です。

番組ではシステムの海外展開も話題になりましたが、こうした点も踏まえると、その意義の大きさが理解できます。現場を歩いて実情を知ることも大切ですが、上から俯瞰することで見えてくる課題とアイデアがあります。

途上国にとって、食料問題は日本以上に切実な課題です。広大な土地を対象に、食料生産のプランを立てる。人工衛星の情報を加工して「鳥の目」を提供することで、サグリはその手がかりを与えてくれるのです。

考えてみれば、はるか上空の人工衛星から見る地上の風景そのものが、はじめから国境を越えています。サグリの事業が瞬く間に海外に広がっていったのも必然と言えるでしょう。今後の展開に注目したいと思います。