JA秋田ふるさとの前組合長【吉田編集委員の取材後記】
JA秋田ふるさとの前組合長、小田嶋契さんのお話はいかがでしたでしょうか。ぱっと聞くと、JAグループへの強烈な批判が印象に残るかもしれません。「過激」と感じる関係者もいるのではないかと思います。
でもその言葉をふり返ってみると、農協マンとしての強い使命感が背景にあることがわかります。「農協の役割は産地振興」。小田嶋さんを10年近く取材してきましたが、一貫して強調しているのはその点です。
小田嶋さんの名前が一躍「全国区」になったのは、2018年の「減反廃止」に際して、横並びでコメを減産するのを拒み、あえて増産に踏み切ったときです。そのときのエピソードを、番組でも詳しく語ってくれました。
減反廃止が政策のテーマになったとき、小田嶋さんは最初、「どうなるか不安」と感じました。米価は減反で支えられているので、米所の農協を率いる立場としては当然の懸念です。他の組合長も同様の反応でした。
ところがここで小田嶋さんは、減反がスタートしたころのことに思いをはせます。「先輩たちは、そもそも減反に反対していたはずだ」。そこに思いいたったとき、「チャンスではないのか」と発想を切り替えました。
農協の大切な役割は、農家が安心して生産に専念できるようにすることです。そのためには需要を開拓し、売り先を確保することが必要です。横並びで減産しなくてすむようになることは、その好機と感じたのです。
残念ながら、小田嶋さんのように考える関係者は一部にとどまり、多くの農協は引き続き足並みをそろえて減産する道を選びました。その結果、小田嶋さんはJAグループの中で「異端」と見られることもありました。
でも小田嶋さんがこのときとった行動は、農業団体が本来目指すべきもののはずです。生産振興なくして、地域の農業の活性化はあり得ないからです。全国一律で減産し続けて、農業と農村が元気になるでしょうか。
競争の帰結として、減産せざるを得ない地域も出るでしょう。コメは消費が減っているので、なおさらです。でも、もしそうなったら他の作物にチャレンジすればいいのです。新しい作物への挑戦も農協の責務です。
農協の幹部として、小田嶋さんはその可能性も追求しました。番組の中で紹介のあったシイタケの産地化です。新たな作物として、シイタケの栽培を振興したのです。いまや地元は全国有数の産地に成長しました。
競争と協調のバランス。これは農業の永遠のテーマでしょう。農業は地域社会と切り離せないものなので、協調すべきことは数多くあります。でも経済活動である以上、競争を通して活力を高めることも大切なのです。