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【吉田編集委員の取材後記】第9回放送から

今回のゲストである横田修一さんに初めて取材したのは、もう10数年前のことだ。刺激を受けることはこの間様々にあったが、とくに印象に残っているのが、戸別所得補償制度が廃止になったときの取材だ。

2012年に自民党が政権に復帰したのを機に、民主党時代にできた稲作関連の補助金である戸別所得補償が廃止される方向になった。この補助金については賛否それぞれにあったが、かなりの農村票が民主党に流れる要因になったこの制度を、自民党は許そうとはしなかった。

この事態を稲作農家はどう受け止めているのか。旧知の稲作経営者に聞いてみると、「このままでは廃業だ」と苦しげな様子で答えた。全国的にも有名なこの経営者からは事業の収益性がどれだけ低いかを何度も聞かされていた。彼にとって戸別所得補償の廃止は経営を左右する重大問題だった。
結果的に戸別所得補償が廃止になっても事業が破綻するようなことはなかったが、彼と同じような危機感を抱いていた稲作農家は少なくなかったように思う。それほど多くの農家が補助金に支えられていたのだ。


このとき、横田さんにも同じことを質問してみた。返ってきた答えは「うちは戸別所得補償がなくてもちゃんと利益を出すことができます」。そう言いながら筆者に対し、決算関連の書類を見せてくれた。補助金に頼らなくても経営を続けられることを、その表はしっかりと示していた。

国民が飢えを心配しなくてすむようにするには、食料を余らせておくことが必要になる。不足はもちろん、ならして過不足がないような状態でも食料供給が不安定になるからだ。そして常に過剰な商品をつくる産業は、おのずと収益性が低くなる。だから農業補助金を否定すべきではない。

考えるべきはどんな経営をモデルにして、公的なサポートを実施するかにある。全国平均の稲作の赤字額を統計的にはじき出し、その分を補助金で穴埋めする。現状肯定としか言いようがない手法で補助金を支給したのが戸別所得補償制度だった。だがそんな仕組みで、本当に農業は発展するだろうか。


真ん中:横田修一さん

横田さんの今回のメッセージの核心部分もそこにある。補助金がいつも助けてくれるような環境のもとで、多くの農家が経営をよりよいものにしようとするとは思えない。そう考えるからこそ、横田農場は栽培方法や組織運営のあり方を見直して効率を高めてきた。その努力はいまも続いている。

目標は競争をいまよりも激しくし、農家を勝者と敗者に分けることではない。お互いに刺激し合いながら、活力のある農業と農村であるようにしたい。リスナーの皆さんにはそんな思いを感じ取っていただけたらと思う。