【吉田編集委員の取材後記】農業の取材をしていて、最近大切だと思うようになったのは「低投入型」という考え方
農業の取材をしていて、最近大切だと思うようになったのは「低投入型」という考え方です。
いま多くの酪農経営が極めて厳しい状況に置かれています。原因は新型コロナの流行で需要が減ったことと、その後起きたウクライナ戦争で飼料の国際相場が高騰したことです。2つとも、酪農家の力でどうにかできるような出来事ではありません。
ただ苦境の背景にはもう1つの事情もあります。畜産クラスター事業という国の支援策を活用し、機械や設備に投資して経営規模を拡大したことです。市場の縮小やコストの上昇は、大量生産を前提にし、しかも多額の負債を抱えた経営にとりわけ深刻な影響を及ぼしました。
こうした状況に柔軟に対応しているのが、低投入型の酪農経営です。牛の頭数を一定の範囲に抑え、自社農場で牧草を育てることで、輸入飼料への依存を抑えています。経営規模があまりに大きいと、自社で飼料をまかなうには限度があるので、このモデルは実現できません。
植物工場にも同様のことが言えます。「1日のレタスの生産量が数万株」といった巨大な工場は、大量生産で効率を高めることを目標にしています。でもその分、電気を大量に使う必要があり、最近の電気代のアップが経営に重くのしかかります。
これと比較すると、プランツラボラトリーの植物工場の強みが明らかになります。設備を極力コンパクトにすることで、使用する電気や水の量を抑え、「1日に数100株」でも利益を出すことを可能にしました。
代表の湯川敦之さんによると、「発電所や送電線がない場所で、太陽光発電で運営できる設備」を考えたそうです。そのためには、「少ない電力と少ない生産量」の組み合わせが前提になります。イメージしたのは、日本と比べて水や電気の入手が難しい海外での生産です。
しかも、コンパクトあることは、多様な立地を選べるという強みにもつながります。すでにプランツの設備はスーパーの空きスペースや駅舎の一角に導入ずみです。大型の植物工場ではこうはいきません。
こういう経営モデルは、今後の農業にとってとても重要になると思います。長いデフレのもとで、様々なコストを安く抑えることができた時代は、国内外の情勢の変化で過去のものになりました。
コメや麦、大豆など土地利用型の作物では今後も規模拡大が必要です。ただその際も、肥料や農薬、機械などの投入コストを抑え、いかにバランスよく利益を出すかが課題になります。
規模を追うことの多かった植物工場で、時間をかけてじっくり準備を進め、いま事業の拡大期に入ったプランツのモデルは、多くの農業経営にとって参考になると思います。