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三重・VISONへ【杉本記者の取材後記】

交通の便はよいとはいえない。名古屋から電車と車を乗り継いで2時間近く、そのリゾート施設はようやく姿を現した。カーブのある山の坂道を登っていくと大きな三角屋根で覆われた建物が目に飛び込んでくる。芝生には家族連れが思い思いに座ってくつろぎ、三角屋根の下では朝どれの鮮魚や野菜が陳列され、地元の海女さんや生産者が接客している。各地のみそを量り売りする店舗は、まるでジェラート店のような洗練された空間。「食の一大テーマパーク」をコンセプトとした「VISON(ヴィソン)」は、山がまるごと集落になったようなにぎわいのある場所だった。

三角屋根の下で (左から 立花哲也氏、杉本記者)


東京ドーム24個分(119ヘクタール)という広大な敷地は、ゴルフ場になるはずだったが開発計画がとん挫した土地だそうだ。圧倒的なスケール感を生かし、地元産の生鮮品を扱うコーナーに加え、こだわりの飲食店、かつお節やみそ、昆布、みりんといった日本ならではの食材の専門店のほか、農園や宿泊施設も備える。パティシエの辻口博啓氏、シェフの奥田政行氏や深谷宏治氏など数々の著名な料理人が構想に賛同し、地場の食材を使ったスイーツや料理を提供している。「松阪牛」など全国区のブランド食材はもとより、「伊勢いも」や「蓮台寺柿」といった四季折々の在来野菜・果実を使ったメニューが目立つのも、わざわざ足を運んでもらう仕掛けのひとつだ。

2021年に開業したヴィソン。中心的な役割を果たしたのが、三重県出身で建設業を経て県内の温泉宿の再生で実績を上げていた立花哲也氏だ。運営会社のヴィソン多気(三重県多気町)は土地も購入し、開発総額は220億円と大規模。ここからは、従来型の商業施設とは一線を画する覚悟が読み取れる。
というのも、地方都市にある大型の商業施設は定期借地権付きで運営されることが多く、「長くても30~40年で建物を壊して終わるのが前提」(立花氏)。一方、ヴィソンは「日本にはこれまでなかった100年、200年続く商業施設を目指したい」という。ほとんどの施設を木造にしたのも、伊勢神宮の「式年遷宮」のように建て替えて継承していくことを視野に入れているためだ。地域の農業や漁業、林業など一次産業を潤し、次の世代に確実に引き継いでいくことにつながるとの思いがある。

立花氏は「よくある商業施設だと北海道から九州まで同じ店舗、同じレストランしか入っていない。地域が変わればとれる食材や農産物も違うし、みそやしょうゆ、酒も違う」と強調する。和食が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されて丸10年。和食がグローバルで存在感を増すにつれ、寿司や蕎麦といったメジャーな和食のみならず、「DASHI(だし)」や「UMAMI(うまみ)」など目に見えない味わいを表す単語が日本語のままで外国人に通じることも珍しくなくなってきた。和食に親しむ層のすそ野が広がり、本物を求める人が増えるいわば「和食2.0」ともいうべき時代に入ったといえ、ヴィソンのような日本のなかでも地域色を前面に出した食のテーマパークが世界からも人を引き付ける素地はありそうだ。


ミシュラン星つきのシェフら18人が監修し、地元食材を使ったメニューを楽しめる施設


人口1万5000人ほどの多気町。日本の多くの地方自治体と同じく少子高齢化に悩む同町だが、この施設内ですでに600~700人の雇用を生み出したという。「フーディー(食通)」たちのデスティネーション(目的地)として世界中から旅行客が集まるスペイン・バスク地方の「美食の町」、サンセバスチャンのようになれるかどうか。日本のほかの地方自治体からも熱い視線が注がれている。

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