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【吉田編集委員の取材後記】優れた農業経営を取材していると

魅力的な農業者を取材していると、

魅力的な農業者を取材していると、ある種の思想のようなものを感じることがあります。根底には何があるのかを考えているうちに、「天候に向き合う仕事」である点が重要なのだと思うようになりました。
こと京都の山田敏之さんに始めて取材したのは、10年以上前のことです。いまもとても農業のことをわかったとは言えませんが、そもそも何も知らなかったころから、農業経営について丁寧に教えてくれました。
当初は「損して得取れ」という言葉で山田さんの姿勢を理解しようとしました。本人がそういう言葉を使ったわけではありません。短期的にはそれほど得になるとは見えなくても、相手の要望に応えることで、徐々に事業が発展していく様に、「商人道徳」のようなものを連想したのです。


イベントの後に…

少し違った角度から考えるになったのは、

こと京都が台風で大量にネギを倒され、大きな損失を出したころからです。「台風が発生したとき、こっちに来るなって祈るだけなのは嫌じゃないですか」。山田さんはそう話しました。そして今回話題にも出た農業版BCPの作成に乗り出しました。
台風が迫ってきたとき、その進行を食い止めることなど誰にもできません。でも黙って見ているのではなく、ロープでネギを縛ったり、早めに収穫したりして被害を最小限に食い止めようと努めます。実際には台風が来なくても無駄だったとは考えず、経験値が高まったとプラスに受け止めます。
生産者が日々相手にしているのは、自然という人間にはコントロールができない存在です。だからといって諦めたり、政府の支援にすぐ期待したりするのではなく、困難の大きさを見極めて可能な手を打つ。そこに農業らしい良きスピリッツを感じます。農業版BCPはその象徴でしょう。
そんな取材をしているうちに、「損して得取れ」は狭い理解だったと考えるようになりました。相手が望むことを知り、自分にできることを見定めて対処する姿勢は、自然が相手のときと共通。大切なのはその構えです。
もちろん、こういう経営のかたちができるまでには様々な難局がありました。印象的なのは、番組の中で語っていた「畑に行ったらネギがない夢を見た」という言葉です。最悪の事態も考えながら、最善の手を模索してきたのです。
天候にどう向き合うか。あるいは別の農家なら生き物といかに相対するか、という言葉で表現するかもしれません。規模の大小とは関係なく、これは農家がみな自分なりの答えを見つけ出すべきテーマでしょう。その中で育まれる思想は、農業ならではのとても健全なものだと思うのです。
 

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