【吉田編集委員の取材後記】今回から始まりました「農(アグリ)のミライ」、よろしくお願いします。
番組の中でも言いましたが、農業を取材していて思うのは、農家同士、農家とそれ以外の人との間で農業への見方のギャップが大きいという点です。様々なゲストの方と意見交換しながら、現場目線でそのわけを考えたり、溝を埋めたりしていきたいと思っていますが、もう一つ考えていることがあります。
それは番組を通して自分と農家の皆さんとの距離を縮めたいということです。取材で現場を訪ねると、出荷場にラジオが置いてあるのをよく見かけます。栽培をしながら聴いている人もいるでしょう。そんな皆さんに、有意義な情報をお伝えしてもっと近づくことができればと思っています。もちろん「そこはちょっと違うんじゃないか」というお叱りの言葉も大歓迎です。
中森剛志さんを初回のゲストとしてお迎えしたのは、「構え」の大きさを知ってもらいたかったからです。「植物が好き」「自然が好き」「一国一城のあるじになりたい」「お金を稼ぎたい」。農業を始める人には様々な動機があります。どれも農業をポジティブに考えていて、素敵なことだと思います。
そうした人たちと中森さんが少し違うのは、日本の食料問題のことを考えて就農したという点です。事業とはそもそも社会のニーズに応えるものである以上、何かしら問題が潜んでいるところに注目するのは当然のことです。
ただそれが食料問題となると、本来は国の役割のように思えます。それでもこの大きなテーマに取り組んでいるのは、政府に任せていて大丈夫なのかという危機感があります。これまでの農政を踏まえたリアルな判断でしょう。
中森さんに以前、「スタッフが独立したいと言ってきたら?」と聞いてみたことがあります。実際、独立したスタッフと生産者グループをつくり、共同出荷のかたちで事業規模を拡大している農業経営者はたくさんいます。
では中森さんはこの問いにどう答えたのでしょうか。まず「応援する」と話した後、少し考えてから「できればここで働き続けてほしい」と言い直しました。理由は自ら大きくならないと、広大な農地を耕して食料の供給インフラを守るという目的を達成できるかどうかわからないからです。
だからこそ、きちんと利益を出し、経営を発展させるために全力をあげています。国内でつくれる有機肥料で作物の付加価値を高め、輸入肥料の価格上昇にも備える。穀物の国際相場の高騰を受け、飼料用トウモロコシの栽培に着手する。どれも自らに課した使命とビジネスを両立させるための戦略です。
国際情勢が不透明さを増し、農業を取り巻く環境も劇的に変わりつつあります。かつてない構造変革期を迎えていると言っていいでしょう。では農家の皆さんはどんな営農のあり方や生き方を目指し、田畑と向き合っていくのでしょうか。番組では引き続き、そのことをさぐっていきたいと思います。