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北海道旭川・ホーブへ【杉本記者の取材後記】

そのイチゴは、「夏瑞(なつみずき)」という名前の通り、みずみずしさとしゃきっとした食感、甘みとさわやかな香りを持ち合わせた味わいだった。7月下旬、旭川空港からほど近い北海道東神楽町のホーブ本社を訪ねると、大雪山系が一望できる敷地に並ぶビニールハウス内には夏の盛りとは信じられないほど多種多様な熟れたイチゴがなり、甘い香りを放っていた。

真夏の盛りにも良質ないちごが収穫できる
(左から ホーブ創業者で会長を務める高橋巌氏と杉本記者)

イチゴ産地としては栃木や福岡のイメージが強いが、両県が誇る「とちおとめ」や「あまおう」といったブランドは基本的には春から初夏の年に1度収穫する「一季なりイチゴ」と呼ばれる品種。対して、「夏瑞」は夏秋など長い期間にわたって収穫できる「四季なりイチゴ」の一種で、夏でも涼しい北海道の地の利を生かした生産ができる。

夏瑞は8年がかりで2016年に開発。北海道のほか気象条件が近い標高が高いエリアなど各地の契約農家で栽培され、同社が規格品を全量買い取ることで洋菓子メーカーやコンビニエンスストアなどに卸しているほか、生食用にも出荷している。大口顧客にはシャトレーゼや不二家といった顔ぶれが並ぶことからもわかるように、365日新鮮で品質の安定したイチゴを出荷できるビジネスモデルは特に業務用として重宝されている。


大雪山系の大パノラマが広がるホーブ本社

昭和生まれの私にとっては、3月の誕生日に決まって母親がつくってくれたイチゴのショートケーキが原体験で、「イチゴ=春」と刷り込まれている。しかしいまや、イチゴのショートケーキもイチゴ大福も年中店頭に並ぶようになった。夏秋にもシーズン並みに良質なイチゴが流通するようになったのはホーブの存在なくしては語れない。従来は主に米国産を輸入してオフシーズンの需要をまかなっていたが、「よりおいしい日本産のイチゴを」というニーズを踏まえて新品種を開発し、農家と二人三脚で市場に供給してきた。


ホーブは夏秋にとれる自社開発品種を契約農家に栽培してもらい、規格品を全量買い取るビジネスモデルを構築

37年前に創業した同社だが、ここへきて逆風にさらされている。創業者の高橋巌会長が「去年が初めて」と話すのが夏秋イチゴの生育を著しく阻んだ猛暑。「お盆を過ぎても朝夕に涼しくならず、お盆すぎにはイチゴがとれなくなってしまった」という。「ケーキ屋さんからは怒られるし、ショートケーキにのせるはずのイチゴが足りず去年はブドウがのって非常にショックだった」。24年6月期の業績も下方修正を余儀なくされた。

そうしたなか、同社は海外での事業展開を本格化する。現地の農家に種苗を供給し、日本生まれならではの甘みやジューシーさを備えたイチゴを現地生産してもらうというのが構想だ。インドネシアやマレーシアなど東南アジアのほか、米国も有力市場と位置づける。

実際、日本のイチゴには熱い視線が注がれている。財務省の貿易統計によると、23年のいちご輸出額は61億6000円で、この10年で約26倍に拡大した。輸出先はトップの香港(45億円)、2位の台湾(7億円)に、タイ、シンガポール、マレーシアなどアジア各国が続き、航空便で収穫から1日足らずで食卓に届けられることから生食での需要が伸びている。

日本最北端に本社を置く上場企業でもあるホーブ。年間で栽培できる作物の種類の少なさに悩んでいた北海道の農家を手助けするというミッションから創業に至った高橋会長だが、「元祖バイオベンチャー」として海外からも引き合いが強まっているようだ。


ホーブは「日本最北端の上場企業」としても知られる